なにか場違いなところに来てしまったのではないかと思ったほど、患者さんすべてに配慮されているようなクリニックでした。 医療センターで過去に撮ったCT写真や紹介状などをもって再訪した日、看護婦さんに血液をとっていただき、その2週間後から、右肺に3センチ大の腫癌が存在。
最初に先生がおっしゃったとおり、副作用がまったくないのがなによりで、患者にとって本当に優しい治療法であることがわかりました。 ただ、がん自体は、小さくも大きくもならず、進行が止まったまま現在にいたっています。
点滴治療を受けてからというもの、まわりの人たちがみなゴホゴいよいよ私の治療は始まりました。 「Sさんの血液からリンパ球をとりだし、それを培養して強力なものにしてから体にもどします」事前にそんな説明を受けていた点滴治療。
いまもそうですが、初回のときはたいへん気持ちがよく、なにか元気をいただいているみたいで、「ああ、強力になったリンパ球が私の体の中に入って、一生懸命がんと闘ってくれるのだな」などと、ずいぶんのあいだぼんやり考えていました。 私の場合、月に2回の割合で最初の1クール(6回)を終え、それからは、月に1回、2か月に1回とインターバルを変えていきました。
〈治療後〉治療開始1年後、進行が止まったまま大きさの変化はまったく見られない。 風邪を引きませんし、友人には、「あなた、どこががんなの、私より血色いいんじゃない」なんていわれます。

だれが見ても健康そのもので、がんをかかえている人には見えないようです。 自分でも抵抗力がついたと感じます。
あれは数回目の点滴を受けた日だったと思います。 Sクリニックの前の道で、あるご夫妻に声をかけられました。
私より2つか3つ年上の奥様が通院しておられるご様子でした。 「奥さんもここで受けているんですか。どこが悪いんですか」と聞かれたので、「私は肺の腺がんなんです。右胸のこのへんにできているんです」と答えると、「私と同じですね」とおっしゃいました。
偶然にも、私とまったく同じケースの患者さんだったのです。 その方は、2回の手術のほかに、放射線や抗がん剤、ワクチンなど、可能な療法はなんでも試されたとのことでした。
それでも、再発が二度三度と続き、今回で4度目。 手術した傷口のところが痛くてしょうがないと青ざめた顔をなさっていました。
「奥さんはとてもお元気そうですね、いままでどんな治療を受けられたんですか」「なんの治療も受けないでここに来ました」「手術もなにもなさっていないんですか」「手術も放射線もできないといわれました。抗がん剤もお断りしました」「それでいまはどんな状態なんですか」「小さくも大きくもならず、そのまま止まっている状態がずっと続いてるんです」「ああ、そうなんですか。体のダメージがないからお元気なんでしょうね」「そうだと思います」私がそう答えた後、その方のご主人がしみじみとこんな話をされました。 「うちの妻は、ごくごく初期のがんだからといわれて手術したんです。でも、その後は、抗がん剤をやってもなにをやってもだめでした。再発するときはしてしまうんですね。いまはむしろ手術なんか受けなければよかったと後悔しています」そんな話を聞くにつけ、手術や抗がん剤は体へのダメージが大きいから逆に免疫力が低下し、それでがんの勢いがかえって再発しやすくなるのではないかという気がしました。
現在のがん治療はとても進歩したみたいにおっしゃる先生もいます。 でも、がんは相変わらず死因の第1位なのですから、私はどこが進歩したのかしらと首をかしげたくなります。
標準治療だからといって、手術・抗がん剤・放射線をすべての患者に押しつけてきます。 抗がん剤1つとっても、なかには研究熱心な先生もいらっしゃいますが、ふつうの先生はどこまでわかってやっているのでしょう。
なんの疑問ももたずに、手探り状態で、当たり前のように使っている理由が私にはよく理解できません。 手術にしても先生によって技術の差があり、ミスや事故もよく起きています。
患者は麻酔をかけられたら、どんなふうにされてどこに傷をつけられてもわかりません。 とくに肺がんの手術は難しいし、術後の経過もけっしてよくないといわれています。
私が、がんになって悩んだとき、医師である先生方は、もしご自分ががんになったときはどうなさるのだろう?という思いがあったので、がんになった何人かの医師のことが書かれている本を読んだことがあります。 医師であっても、がんを宣告されたときは、かなり動揺し、あせったり、落ち込んだりと、私たち一般の人たちと同じなのだと思いました。

胃がん、大腸がん、乳がん、悪性リンパ腫など、それぞれのがんになった医師たちは、手術や放射線、抗がん剤など、治療を受けた結果、手術の後遺症に悩み、抗がん剤の苦しみなどで途中からこれを拒否し、その後は、健康食品、漢方薬、あるいはゲルソン療法(特殊な食事療法)など、代替療法にたよって、なんとか克服に努めたことが書かれていました。 そして患者になってはじめて苦しみが理解できたとおっしゃっています。
現代医療の限界を見た思いでした。 私は自分の治療法を人まかせにしたくはありませんでした。
自分の体のことですから、治療法は自分で選択したいと思っていました。 その甲斐あって、がんになったことはとても残念ですが、この病を得て気づかされたことがたくさんあり、いままで見えなかったものが見えてきたことで、私にとってはよい勉強をさせていただいたと思っています。
そして人間は、この世のあらゆるものの恵みを受けて生かされていることを感じ、感謝の気持ちをもって生きなければ…と思いました。 病気をすなおに受け入れて、がんとの共存を考えながら、「がん子ちゃん。大きくならないでね」なんてつぶやきつつ、無理をせず淡々と生きてゆけたらと思っています。
本当に体に優しい理想の治療に出合うことができました。 免疫細胞療法のような治療が、もっと安く受けられるようになったら、どれほど大勢の方が救われるかしれません。
私はいまもがんを二つ抱えたままですが、このがんが小さくならないならそれでもいい。 ただ、悪さだけはしてほしくない、大きくだけはなってほしくないのです。
がんがあっても、進行が止まっているかぎり、そして副作用のような苦しみもなければ、こうしてふつうに生活していくことができるのです。 このままずっと何年も生きられたらどんなにいいでしょ。
Hさん(前立腺がん)、大手製鉄メーカーを定年退職した後、会社を経営する友人に声をかけられ、5年間そこで働いておりました。 3年前の1999年6月、私の誕生日。

その会社も円満退社して、「やれやれ、これで天下晴れて好きなことができる」と1人悦に入っておりました。 退職後、運動不足にならぬよう、朝は近所の公園を散歩し、昼は新宿か中野の商店街をぶらつき、その足で図書館に立ち寄って夕方帰ってくるのを日課としておりました。
ところが、はりきりすぎて足を挫いたのか、左足に痛みを覚え、速足でスタスタ歩くことがしだいに困難になってきました。 2〜3か月もすると痛みはさらにきつくなり、途中で電柱に寄りかかったり、道端にしゃがんで何度も休むといった具合でありました。

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